滅多にないことなので、みんな気分も明るく解放的になっているように感じます。
イギリス暮らしももう11年。正直、もっと早くに日本に帰っておいた方が良かったのではないかと思ったりしない時もありません。英語で何の基盤もないところで仕事していく大変さ、夫以外頼れる家族のいない中での子育て・・・日本にいれば違ったのではないかなんてことがふと頭をよぎることもあります。それは、海外経験が私より少ないのに、長々と海外生活をすることになった夫も同じかもしれません。
カウンセリングを学びに出かけたアメリカからレスターに移住して息子が生まれた後、大学院の恩師であるジョン・ブランド先生をサンフランシスコに尋ねました。私が学生だった当時、窓のない入り口にあるとても小さなお部屋にいらしたのですが、私はそこを訪れるのはいつもとてもスペシャルな気がしていました。
久しぶりに尋ねた時にはブランド先生は、教授になって奥の見晴らしの良い明るい広いお部屋にいらっしゃいました。私が部屋のことをいうと、「ああ、そうそう。いいでしょう、この部屋は誰にも渡さないよ」と茶目っ気たっぷりに笑って見せるのですが、先生の元教え子に対しての深いさりげない優しさは昔のままでした。
話の途中で学科長がドアを叩き、「ジョン、ミーティングだから早く来るように」とせかされました。慌てて立ち上がろうとする私を制して、「大したことではない、気にするな」と苦笑しながら手を横にふって話を続けてくださいました。
イギリスのガーデンのカレンダーを手渡すと「イギリスらしい」と喜んで下さってから、
「あなたが今住んでいるレスターとはどんなところですか?」
と聞かれたので、
「日本とサンフランシスコの間のように感じるところです。」
と答えると、深い眼差しでしばらく間があってから、'Very interesting...'とひとこと。
スペシャルな臨床家というのは、何というのでしょう・・・ほんのわずかなやりとりでも、ものすごく深く理解されている気にさせるのです。その場の空間が別次元とでもいうのでしょうか。ブランド先生に質問され、知らぬ間に語っていたこころの風景、私の方はだいぶ時差があって・・・数年後に自分の言葉の意味に気がつきました。
あの「空間」を思い出していると、・・・私の中の様々な迷いは消え去りました。やはり、私にとってはスペシャルな師です。